行政が把握しているゴミ屋敷の相談件数や、マスメディアで報じられる衝撃的な事例。それらは、日本全国に広がるゴミ屋敷問題の、ほんの氷山の一角に過ぎません。水面下には、誰にも知られることなく、問題が深刻化している「潜在的ゴミ屋敷」が、数万件、あるいはそれ以上の規模で存在すると推計されています。これらの潜在的ゴミ屋敷は、なぜ表面化しないのでしょうか。その最大の理由は、住人の「社会的孤立」にあります。家族や親戚、友人との交流が途絶え、近隣住民との付き合いもない。このような状態では、たとえ家の中がゴミで埋め尽くされ、本人がセルフネグレクトに陥っていても、外部の誰もその異変に気づくことができません。特に、一軒家の場合、ゴミが家の外にまで溢れ出さない限り、その問題が発覚するまでには、長い時間がかかります。また、問題に気づいていながらも、声を上げられないケースも少なくありません。近隣住民は、「トラブルに巻き込まれたくない」「逆恨みされるのが怖い」といった思いから、通報を躊躇してしまいます。家族や親族も、「家の恥だ」という思いや、本人との関係悪化を恐れて、問題を直視できず、見て見ぬふりを続けてしまうことがあります。さらに、住人自身が、助けを求める術を知らなかったり、支援を拒絶したりすることも、問題を潜在化させる大きな要因です。自分の状況を恥じ、誰にも相談できないまま、ゴミと共に孤立を深めていくのです。これらの潜在的ゴミ屋敷は、ある日突然、孤独死や火災といった、最も悲劇的な形で、その存在を社会に知らしめることになります。私たちが今、取り組むべきなのは、表面化した問題への対処だけではありません。地域社会に張り巡らされた見守りのネットワークを通じて、これらの声なきSOSをいかに早期に発見し、手遅れになる前に、支援の手を差し伸べることができるか。その地道な努力こそが、潜在的ゴミ屋敷という、静かな時限爆弾を解除するための、唯一の道筋なのです。