「ゴミ屋敷が増えている」という社会問題が深刻化する中で、地域の公衆衛生を担う「保健所」が果たす役割は非常に重要です。保健所は、ゴミ屋敷が引き起こす衛生上の問題に対し、専門的な知識と権限を持って介入できる数少ない機関の一つです。しかし、その役割には明確な限界も存在します。保健所がゴミ屋敷問題で主に担う役割は、「公衆衛生の観点からの指導と介入」です。ゴミ屋敷が異臭を放ち、ハエ、ゴキブリ、ネズミなどの害虫・害獣を大量に発生させている場合、これは「感染症の発生源」となったり、「近隣住民の健康を脅かす」と判断されたりすることがあります。このような場合、保健所は公衆衛生法や関連法規に基づき、住人に対してゴミの撤去や清掃、害虫駆除などの指導を行うことができます。具体的には、近隣住民からの苦情を受け、保健所の職員がゴミ屋敷を訪問し、現状を確認します。その上で、住人に対し口頭や書面で改善を促し、必要に応じて専門業者への相談を勧めるなどします。住人が指導に応じない場合、さらに強い勧告や命令を発することもあります。しかし、保健所の役割には限界があります。第一に、保健所の権限は「公衆衛生上の危害」に限定されています。例えば、ゴミの山が火災のリスクを高めている、あるいは建物の倒壊の危険があるといった問題は、消防署や建築指導課など、他の専門部署の管轄となります。保健所は、あくまで衛生面からの介入が主であり、ゴミ屋敷問題全体を包括的に解決する権限は持ち合わせていません。第二に、「住人本人の拒否」という壁があります。保健所の指導や介入には、住人自身の協力が不可欠です。しかし、認知症やためこみ症、精神疾患などを抱える住人の中には、自分の家が問題であると認識していなかったり、行政の介入を拒否したりするケースも少なくありません。このような場合、保健所単独での解決は極めて困難となり、福祉部門や医療機関との連携が不可欠となります。保健所は、ゴミ屋敷問題の解決において重要な役割を担っていますが、その専門性と権限の範囲を理解し、他の機関と連携することで、より効果的な支援が期待されます。
ゴミ屋敷問題における保健所の役割と限界