「ゴミ屋敷が増えている」という現状の中で、保健所の中でも特に「保健師」が果たす役割は、ゴミ屋敷の住人の心に寄り添い、信頼関係を築く上で極めて重要です。行政の指導や命令だけでは解決しないゴミ屋敷問題において、保健師のきめ細やかなアプローチが、住人自身の回復への一歩を促します。保健師は、公衆衛生の専門家であると同時に、地域住民の健康と生活を支える身近な存在です。彼らは、ゴミ屋敷の住人の自宅を訪問し、単に衛生状況を確認するだけでなく、その人の生活背景や健康状態、抱えている心の悩みに深く耳を傾けます。ゴミ屋敷の住人の中には、社会とのつながりが希薄で孤立している人が多く、外部の人間に対して強い不信感を抱いていることも珍しくありません。保健師は、そのような住人に対し、一方的に指導するのではなく、まずは共感と理解を示すことから始めます。例えば、「大変な状況ですね」「何か困っていることはありませんか」といった言葉で、住人の心の扉を開こうと努めます。信頼関係を築く上で、保健師の「傾聴の姿勢」は不可欠です。ゴミ屋敷の背景には、精神疾患、認知症、喪失体験、経済的困窮など、様々な複雑な要因が潜んでいます。保健師は、これらの要因を丁寧に聞き取り、住人がなぜごみをため込むに至ったのか、その根本原因を探ることに努めます。そして、決して住人を責めることなく、その人の「困りごと」に寄り添い、一緒に解決策を考えていく姿勢を示します。また、保健師は「医療と福祉の専門家」として、住人の健康状態や精神状態をアセスメントし、必要であれば精神科医の診察やカウンセリング、あるいは介護サービスや福祉サービスへのつなぎを行います。住人が自ら助けを求めることが難しい状況において、保健師は住人の代弁者となり、適切な支援へと導く重要な役割を担います。行政の指導と個人のプライバシーの間で揺れ動くゴミ屋敷問題において、保健師は法律や制度の枠組みの中で、住人一人ひとりの人間性を尊重し、その心に寄り添うことで、物理的な清掃だけでなく、住人自身の心の回復と自立を支援する、まさに「心のケア」の専門家として機能しているのです。